刀剣乱舞シリーズなどのアニメーションで美術設定や背景制作を手掛けてきた株式会社オリーブ(大分県大分市)。同社で実際に背景を制作する先輩二人に現場のリアルな声を伺ってきました。
(写真左から)
内田 陽(うちだ・あきら)さん 28歳 長崎出身 入社7年目
村山 千華(むらやま・ちか)さん 26歳 熊本出身 入社6年目
今の会社に入社した経緯を教えてください
内田さん
卒業進級展の際に、株式会社オリーブ代表の安田と出会いました。背景制作がしたいことを学校の先生に伝えていたので、紹介してもらいました。大分県に住むことには抵抗がなかったですね。東京の会社も採用試験に受かっていましたが、生活費の心配がありました。同じ仕事ができるのであれば九州にいる方が「すぐに実家に帰れる」「家賃が安い」という安心感で大分県で働くことを選択しました。

村山さん
専門学校ではデザイン学科の中でもコースが別れていて、私はイラストレーションを選んでいました。そこに届いた求人募集の中にはアニメーションの求人もあったので片っ端から面接に行きました。 内田の理由と同じく、実家が近くて安心ですよね。九州内に制作会社があってよかったけど、正直地方にはあまり背景制作会社ってなかったですね。ただ、最近では東京に比べて給与の交渉がしやすくなったという話を聞くし、九州内にも制作会社が増えてきました。

1日のスケジュール
10:00 出社
10:05 軽いミーティング
10:10 その日に決めた作業をとことん進めていく
次から次へと新しい仕事がくるので自分で優先順位を考えて作業を決める
12:00 昼食は家が近いので帰って食べる
13:00 作業継続
20:00 特に作業がない時は定時で帰宅
23:00 (頑張らないといけないときはここまで作業することも…)

この業界を目指した理由は?
内田さん
元々ゲーム業界を目指して専門学校に進学しました。最初から背景制作を描きたいと思っていたんです。3DCGでの背景制作なども一通り教えてもらいましたが、実力不足を実感しました。専門学校に来る人は、小さい頃からずっと描いていて、私はスタートが遅かった。入学の時点で差がついていたんです。
ゲームで使われるフル3Dの背景はコンセプトアートの世界です。世界観を決める作業なので、本当に一握りの人しかできないと思います。あとソーシャルゲームの2D背景は需要はあるけど、生業にできる人はすごく上手い人だけなので……ただ、それでもどうしても背景を描きたかった。 そこでアニメーションの業界を目指すことにしました。

村山さん
私は内田さんみたいに高尚な理由ではないんですよ。
進学先が絵を描く学校じゃなくて、チラシやパンフレットを制作するデザインに特化した専門学校で。絵を描くことは好きですが、人と比べてめちゃくちゃ描いているってわけではなかったです。
就活の時に「紙媒体の需要が減っていて、印刷会社やデザイン事務所に入っても将来性は厳しいかも」という話を聞きました。ゲーム会社ではキャラクター作画はもう飽和状態、背景の方が需要があると感じました。また、絵を描いている人ってキャラクターを描きたい人が多いんですよね。需要と供給のことを考えたら、まだ背景制作の方が将来性があると思い進路を決めました。 アニメに憧れがあるというよりは、絵を描くのが好きだからという理由でこの道を選びました。

地方で制作することについて、良い点・悪い点あれば教えてください
内田さん
データのやり取りが主流になったおかげで地方でも制作が可能になりました。やっていることは東京に住んでいても、大分に居てても変わらないと思います。納品も会議も全てオンラインで完結する。これからも地方に制作会社や大手の支部が増える流れはあると思います。 一方で、気軽に取引先の人と会って、業界の情報を入れることができないのでデメリットに感じています。

村山さん
オンラインミーティングで接することがあっても、やっぱり対面で会うのとは違うんですよね。
人間関係の構築が難しいです。 ただ、車のある生活なので、休みの日は息抜きに遠くへ出かけたり、取引先の担当者から資料が足りないから撮ってきてって言われた時に、すぐに行けるのはいいですね。休みの日には、温泉巡りや猫カフェに行って癒されています(笑)。ロケ地巡りもできるので実際に現物を見ることもできます。スケジュールの関係でまとまった休みが取りづらいので、休日は突発的に出かけます。仕事に少しずつ慣れてきたからできることなんですけど、入社したての時は考えられなかったです。

内田さん
大分に来たんですけど、実は温泉が苦手なんですよ。大浴場がちょっと…(笑)
これからアニメ業界を目指す方にアドバイスを
内田さん
大変なことは正直多いです。好きなことを仕事にすると失敗した時の反動が大きい。私は根性で乗り越えてきました。ただ、自分の実力が上がってきたなと感じた時にやりがいを見出せる世界です。自分が追求したいことは何か。そこの芯があれば、どこまでいけると思います。 好きだからこの業界を選びましたという理由だけでなく、自分がこの背景を描いている時に、どうすればこのキャラクターが活きるのか、ということまで考えて作品作りをすると続いていくかなと思います。

村山さん
私は割と現実主義だからな…。私の場合は絵を描くことから逃げたくはなかったです。
最近1本美術監督をやらせてもらっていて、めちゃくちゃ忙しいんですけど、やりがいは確かにあります。そのやりがいがあるから頑張れる。
努力した分は目に見えてわかる業界です。努力は裏切らないってのを実感できるんです。ただアニメが好きというよりは、どれくらい根性があるかで長く働ける業界かと思っています。 先輩からいいこと聞いたから、急にかっこいいこと言っちゃった(笑)

業界を目指すキッカケになった作品などがあれば教えてください
内田さん
ガンバの冒険/小林七郎監督
アニメの背景を目指すようになって、いろいろなアニメの背景を見るようになりました。
父の影響なんですけど、昔のアナログな作品が好きなんです。その中でもガンバの冒険(小林七郎監督)の背景がかっこいいです。憧れで、制作の参考にしています。 ただアニメを見始めたのは、小学生の頃に再放送で父と一緒に観た「ふしぎの海のナディア」。今考えると結構ディープな作品ですね。
村山さん
きっかけになった作品はないですが、アナログで描いていた時の名残が今も残ってます。 デジタルでの制作を始めたのが専門学校2年目から。それまではずっとアナログで描いていました。画材で描くしかなかったので水彩チックな作品が好きです。デジタルに移行する時はすごく違和感がありました。板タブ城で手元に描いているのになんでモニターに描けているんだって。狙ったところにペン先を置く難しさがありましたね。紙一枚で描いていたのと違って、デジタルはレイヤーがあって、これはどう使うんだって、困惑しながら最初仕事をしていました。ソフト自体はチラシ制作の時に使っていたけど、「えっ、これで絵を描くん!?」って驚いた。あくまでも写真加工のツールだと思っていたので。でも、気づいていたら慣れていました。
