
おおいた未来まちづくり株式会社は大分市中心部の活性化を目的に、同市の府内五番街商店街振興組合青年部に所属する渡辺さん、國宗さん、藤井さんが2024年9月に設立。
世界5億人超えのユーザーが登録するメタバース(仮想空間)上のゲーム「フォートナイト」で府内城を”復元”した。メタバースを活用した作品を表彰するイベント「EXPO MCA」では、同社が制作した「大分府内城DOMINATION(ドミネーション)」が一般投票で選ばれる「プレイヤーおすすめ賞」を受賞。ゲーム内では府内城を舞台に県の特産物であるカボスや乾シイタケなどのアイテムを配置し、県ゆかりのある作曲家、瀧廉太郎の「荒城の月」をアレンジしたBGMを流すなど、ユーザーはゲームを楽しみながら大分県に触れることができる。ゲーム事業で得た収益は大分市中心部のまちづくりに再投資し、地域活性化を目指す。
持続可能な運営を目指すために

商店街を中心としたまちづくりには課題があった。
活動は基本的にボランティア。善意に頼る無償の活動は将来的には運営持続に不安が残る。この課題を解決するために商店街振興組合で意見を出し合うが、決定打に欠けていた。
会議を重ねる中で、アニメ作品などのコンテンツを使った地域振興に長く携わってきた國宗さんがメタバースに注目。街づくりに興味を持ち、メタバースに強い魅力を感じた渡辺さんが行動を起こし、資金集めに尽力した。
「フォートナイト」ではメタバース空間にスポンサー名の入ったのぼり旗や看板から広告収入を得ることができる。また、アクセス数に応じで運営会社から配当金が得られる。ゲームで遊びながら若い世代や海外のユーザーが大分を知るきっかけになる。
課題解消に向けた会社を設立し、環境は整った。
⚪︎⚪︎がない!府内城を再現するための意外な苦労

メタバース上に県指定史跡「府内城跡」を再現するにあたって、苦労した点がある。
府内城は1597年に築城、1602年に天守閣が完成、1743年に大火で焼失。4層の本丸がそびえたつ美しい城とされるが絵図や文章などの史料は少ない。
再現するにあたって「府内城を復元する会」に協力を仰いだ。拝借した模型や冊子「豊後府内城」を参考にしても、内装などのわからないところは、和歌山城など同年代のお城を調べてまわった。
また、メタバースの制作をお願いしていた東京都の「モンドリアン」(角田拓志代表=日出町出身)とは納得いくまでやりとりを繰り返した。実際の高さは寸尺でしか史料が残っていないため、國宗さんが府内城跡の周りを歩き、メジャーを使って手作業で計測した。またプレイヤーがゲーム中にどう見えるかなど、スマホのカメラでキャラクター視点や三人称での視点を撮影した。制作会社へ送った動画は50本を超える。デジタル作業の前にはアナログな作業がある。ゲームに落とし込むには精巧なデータからデフォルメをするため、妥協をしなかった。

制作会社にいかにわかりやすく、作りやすいように伝えるかを考え、史料が無い部分は創意工夫で乗り越えた。
「できるだけ正確に府内城を再現する」という当初の目標に近づけた。
もともと持っていた価値をイノベーションさせる

独自のIP(知的財産)を地方から生み出すには、地域をよく知り、魅力を再発見することが重要。
古いものが現代では新鮮に感じ、身の回りには「お宝」が眠っている。
メタバース上で府内城を再現できたのは、0から1を生み出したのではなく、「府内城を復元する会」や役所の方が文化を守り続けてきた「アナログ資産」をデジタルに変換し、再構築することで現代に合った新しいコンテンツとして蘇らせた。
またゴールを逆算し、持続的に運用するためにはどうするかを考えた。最初は「とりあえずやってみよう」と一歩を踏み出したが、仲間を増やしそれぞれの専門家からの協力を得て独自IPを作り出すことができた。
次は、リアルに会える場所づくりを

事業で得た収益は大分市中心部のまちづくりに投資する。その一環に、地域が元気になるための施設運用を始めた。商店街の課題だった空きテナントを有効活用して、eスポーツを中心とした地域の交流が広がるコミュニティースペース「e-XP府内」を新設。ゲーム事業で得た収益を使ってPCや机を配備した。府内城の模型等を展示するなど、特定の分野に固執せず、さまざまな人が訪れやすい環境を整えた。
SNSが普及しオンラインコミュニティが乱立している中で、膝を突き合わせて意見を出せる場所の重要性を認識した。普段出会わない人と交流することで新しいアイディアが生まれ、商店街全体が活気の溢れる場所になってほしいと願いを込める。異業種交流会やワークショップなどのスペース、学生や近隣住民に施設を使った有効活用も検討中。また、大学の行事や花火大会などのイベントなどに協賛をして、地域に還元をしていく。
これからデジタルコンテンツ業界を目指す方へ

「”なんだか面白そう”という直感を大切にしてほしい」と話す渡辺さん。一歩を踏み出すことで、共感をして手伝ってくれる仲間が増えてくる。
「なんでもできるバーチャルな世界だからこそ何をしたいかが大事になってくる。まずはいろんな経験をして、自分のやりたいことがわかればこの業界で楽しく過ごせる。」國宗さん
「街にどんどん関わってもらいたい。ODENなどのリアルに出会うコミュニティに入り込んで交流をすれば、化学反応が起きると思う。街を積極的に利用してほしい。」藤井さん
デジタル業界の人は部屋にこもって作業を行う人が多い。直接いろんな人と出会える場所で交流をすることで新しい”何か”が生まれる。
これから始まるODENに期待を込めた。